転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


192 兵隊さんのおやつ?



 ぽりぽりぽり。

「この焼き菓子、素朴な味ですが美味しいですわね」

「うん。それにとっても軽いから、この頃は村のみんなも森へ行く時はおやつに持ってくんだよ」

 ロルフさんたちが隣の部屋でお話をしてる間暇だったから、僕はいっつもポシェットに入れてる焼き菓子を出して食べ始めたんだ。

 そしたらストールさんがそれは何? って聞いてきたからあげたんだけど、そしたら思ったより気に入ったみたいなんだよね。

 ぽりぽりぽり。

「へぇ、グランリルでは日常的に食べられているのですか。確かにこの軽さですから持ち運ぶには便利でしょうけど、これはどのように作られているのでしょう? 小麦粉のようですが、水で練ってもこの様な味にはならないでしょうし」

「うん。これはね、水じゃなくて、グレープオイルで練ってあるんだ」

 これは僕の前世のお婆ちゃんがよく作ってくれたお菓子で、僕もその時によくそのお手伝いをしてたんだ。

 作り方はとっても簡単。小麦粉と塩胡椒、それに乾燥バジルを混ぜた物にオイルを入れてよく練るんだ。

 でね、それを平たくしたら包丁で細く切ってからオーブンで焼くだけなんだよ。

 でもそんなに簡単に出来るのに、ポリポリしてとっても美味しいんだ。

 ぽりぽりぽり。

「なるほど。油で練ってから焼いてあるのですね。言われてみればほのかに油の味がしますわ」

「他に入ってるのは村の近くで取れたバジルを乾燥させたのとお塩と胡椒だけなんだよ。それに釜でパンを焼いた後の残り火でも焼けちゃうから、とっても簡単に作れるんだよ」

 パンみたいに重く無いし、ポシェットにも入っちゃう。それに焼き菓子だからとっても長持ちするんだよね。

 その上こんなに美味しいんだから、うちの村でもみんな大好きなお菓子なんだ。

 ぽりぽりぽり。

「なるほど、それはお手軽ですわね。しかしこの様な焼き菓子を口にするのはわたくしも初めてですわ」

「そうなの? 誰でも思いつきそうなのに」

「焼き菓子と言えば多くのバターやお砂糖を使うものが主流ですもの。携帯に便利なようですからもしかすると冒険者の方々などの間ではよく知られているのかもしれませんが、街中でもこの様なものを売っている場面には出合った事がありませんわ」

 そっか。村と違って町の人たちはお金持ちが多いから、もっと美味しい物ばっかり食べてるはずだもん。

 こんな小麦粉を練っただけのお菓子なんて食べないよね。

 ぽりぽりぽり。

「ですが、甘いお菓子とはまた違った後を引くこの味と癖になる食感。このように食べ始めたら手が止まらなくなるようなお菓子の存在を今まで知らずにいたのは、本当に残念に思いますわ。それも材料費が安く、料理人ではない私でさえ簡単に作れそうなものですもの」

「そうだよね。僕んちの家族も村の人たちも、みんな大好きなんだ」

 ただの小麦粉焼きなのに、町で暮らしてるストールさんにも美味しいって思ってもらえて、僕はにっこり。

 上機嫌で次のに手を伸ばそうとしたところで、

 ガチャ。

「お待たせしたわね」

 ドアが開いて、そう言いながらバーリマンさんとロルフさんが部屋に入ってきた。

 でね、二人が入ってくるのを見たストールさんが慌てて立ちあがるとお茶の用意をしにいっちゃって、それと入れ替わりにロルフさんたちが僕のとこに来てソファーに座ったんだ。

「難しいお話はもういいの?」

「ええ。とりあえず話し合わないといけない事はもう済ませたわ」

 どうやら、お話は終わったみたい。

 何となく二人とも何となく疲れたような顔をしてるけど、それでも笑ってる所を見ると難しいお話は美辞解決したみたいだね。

「おや? これは」

 でね、目の前に座って一息ついたロルフさんが、さっきまで僕たちが食べてたお菓子を見て、何か変な顔をしたんだ。

 だからどうしたの? って聞いたんだけど、

「うむ。これはもしや、軍で採用されておる小麦粉の固焼きかな? また珍しい物を」

 そしたらこんな事を言ったんだ。

 そっか、作るのが簡単なお菓子だし、ストールさんが知らないだけでやっぱりあったんだね。

 それに軽くて持ち運びやすいし、その上美味しいからおやつにはもってこいだもん、兵隊さんたちが持ち歩いてたっておかしくないか。

「しかし、こんな不味い物をどうして食べておったんじゃ?」

 僕はロルフさんの話を聞いてそんなことを思ってたんだけど、そしたらこんな事を言い出したんだよね。

 これを聞いた僕はびっくり。そして同じように、お茶の準備をしてたストールさんもびっくりして、僕たちの方に振り向いたんだ。

「なっなんじゃ、一体? これは小麦粉の固焼きじゃろう? ならばぼそぼそして何の味も無い、ただの携帯食では無いか」

「違うよ! これ、とっても美味しいんだよ」

「はい、旦那様が仰られている小麦粉の固焼きと言うものがどのような物かは存じませぬが、ルディーン様がわたくしに振舞ってくださったこの焼き菓子は大層美味でございました」

 でね、びっくりしてる僕たちを見て慌てたロルフさんがもう一回美味しくないよね? って聞いてきたもんだから、僕とストールさんは美味しいんだよって教えてあげたんだ。

「なんと! 美味な小麦粉焼きなどと言うものが、存在しておるのか?」

 そしたら今度はロルフさんがびっくり。

「ルディーン君。一つ貰ってもよいかのぉ?」

「うん、いいよ! ホントに美味しいんだからね。村でも大人気のおやつなんだよ」

「では私も」

 聞いただけじゃよくわかんないからって、ロルフさんとバーリマンさんは僕が持ってきた焼き菓子を一本ずつとって、恐る恐る口に運んだんだ。

 ぽりっ。

「ほう」

「これは、また」

 ぽりぽりぽり。

 最初は二人とも先っぽの所をちょっとだけかじったんだけど、その後は一本全部をいっぺんに食べちゃったんだ。

「なるほど、これは確かに美味じゃのう」

「ええ。ご馳走とは言えませんし派手さもありませんが、素朴で飽きの来ない味だと思いますわ」

「ほら、美味しいでしょ」

「うむ。確かにこれは軍で採用されておる小麦粉の固焼きとはまるで別物じゃな」

 そう言うと、ロルフさんはもう一本手に取ってぽりぽり。

「しかし、外見はよく似ておるんじゃ。いや、あちらはもう少し太いかのぉ」

「そうなんだ」

「うむ。それにこの焼き菓子はぼそぼそしておらんし、ハーブを使って香りをつけておるからのぉ。見た目はよく似ておっても、こちらはきちんとした料理になっておるわい」

 ロルフさんが言う兵隊さんたちが持ってる小麦粉の固焼きってのは、小麦粉を水で溶いた物に塩を入れて焼いただけのものなんだって。

 中にはバターも卵も入って無いって言うんだから、そんなんじゃ美味しくないのは当たり前だよ。

「油で揚げたら、もうちょっと美味しくなると思うのに!」

「それはそうなんじゃろうが、兵士に携帯させるとなるとかなりの量が必要じゃからな。あげるより焼くほうが手間がかからぬし、何よりあげたものは焼いたものより悪くなるのが早いからのぉ」

 そっか。確かに油を使うと早く悪くなっちゃうもんね。

「ところでこの焼き菓子はどのように作られておるのじゃ?」

 でもこのお菓子なら同じように焼いてあるから、もしかしたら兵隊さんに持たせられるかもしれないから教えてってロルフさんが言ってきたから僕は教えてあげたんだ。

 でもね。

「なるほどのぉ。水ではなく油で小麦を練るとは思い付かなんだ。じゃが、確かに利に叶っておるのぉ。じゃが、それでは軍の携帯食には難しいかも知れんのぅ」

 僕の話を聞いたロルフさんはこう言うんだ。水じゃなく油で練るとなるとちょっと難しいんじゃないかな? って。

「戦場に向かう貴族などにはよいかも知れぬが、そのような者たちは戦場にも料理人を連れて行くから携帯食など持たぬ。かと言って一般兵では金を多く使えぬからのぉ。水を油にするとなると1食分だけならともかく、行軍の時に携帯するにはちと金がかかりすぎるじゃろうて」

 そっか。お菓子じゃなくご飯って考えたら、値段がちょっと違うってだけでもかなり大変になっちゃうもんね。

 それじゃあ兵隊さんたちが使ってるのの代わりにするのはちょっと無理かもしれない。

「じゃが、焼き菓子としてはかなり良いものじゃ。貴族のパーティーなどには使えぬじゃろうが、チーズとあわせれば寝る前のワインのお供には最適じゃろう」

「ええ。それに値段が安いのも魅力ですわ。それなら平民の間でも広く愛される菓子になると思いますわよ」

 でもね、お菓子としてはとっても美味しいから、詳しい作り方を後でノートンさんに教えてねってロルフさんに頼まれちゃった。

 そっか、ならトマトを入れたり、ジャガイモを入れたりするのも教えたほうがいいかも。

 あっそうだ! 僕んちじゃ高いから使えないけどロルフさんとこならバターをいれたやつも作れるよね?

 作り方を教えてあげるから、その代わりに作ってちょっと頂戴って言ったらくれないかなぁ?


193へ

衝動のページへ戻る